循環する暮らし — 江戸の“もったいない”と、現代の処理課題

江戸時代、人々の暮らしには「もったいない」という節約と循環の感覚が自然と根づいていました。紙は紙屑屋が回収して漉き直され、着物は仕立て直されて子ども服や作業着、裂き織り、最後は雑巾にまで形を変えて使われました。糞尿は肥料として都市と田畑を巡り、資源の循環が町と村をつなぐ社会の基盤でした。一方、現代には“使い捨て”文化が広がり、紙おむつのような衛生用品は便利さゆえに大量処分され、その破棄と再資源化が大きな課題となっています。
同様に近年注目される「災害廃棄物」は、地震や洪水などで損壊した家具や建材、生活ゴミが大量に発生し、仮置き場で分別されながらリサイクル施設へと運ばれる必要があります。これは江戸の都市が“燃えたら直す”文化で復興してきた知恵とは真逆とも言えますが、現代もまた新たな形で“循環”と向き合っているのです。
また、現代の技術進化はこうした課題の解決に資する一方、「直して使う」精神を再び支える可能性もあります。
・製品の素材や修理履歴を一元で管理する「デジタル・プロダクト・パスポート」により、買う前に修理のしやすさやリユース性を判断できるようになりつつあります。
・AIとセンサーデータを組み合わせ、製品の劣化や再利用可能部品を予測して保守計画を立てる「製品の寿命を管理する技術」、すなわち製品寿命全体を見通すしくみも進展しています。
・一部では、ケミカルリサイクルと呼ばれる混合プラスチックなどを原料レベルに戻す手法が研究されていますが、有害副生成物・高コスト・環境負荷などの課題も浮上しており、技術の限界も指摘されています。
・そして、尿からリンや窒素をストルバイト法で回収して肥料とする技術は、江戸の“肥料循環”に通じる資源の再利用として注目されています。
江戸の大火と現代の災害処理の視点から
今年放送されたNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」は、第1回で「明和の大火」(1772年2月29日、江戸を焼き尽くした大火災)から物語が始まりました。犠牲者が多数出る壮絶な災害の描写は、江戸が幾度も火災に襲われ、そのたびに町人による復興が積み重ねられてきた歴史を背景にしています。
「明和の大火」は、江戸の「三大大火」のひとつに数えられ、社会に深い爪痕を残した災害でした。江戸が町人文化と防災・復興を両立させた背景には、こうした大火災からの“知の蓄積”があったのです。
江戸時代の「もったいない」は、修理職人の手や地域資源の循環によって実践されました。現代は、紙おむつの廃棄や災害廃棄物の処理など、新たな廃棄課題が生まれていますが、その解決にはAI、DPP、資源回収技術といったテックの力が期待されます。
江戸と現代の資源循環思想とは方向性こそ異なりますが、大河ドラマの冒頭に描かれた大火のような危機にこそ、人々の知恵と技術が重なりあって新たな循環型社会を生み出すという原点が、現代にも生きているのです。(森下伸郎)
