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所有者不明土地と公費解体 ──登記制度改正/災害対応の「見えない壁」を越えるために──

2026年4月、登記制度において大きな転換点が訪れます。所有者の住所・氏名変更登記が義務化され、違反すれば過料の対象となります。これは単なる登記実務の改正にとどまりません。災害時の公費解体において、所有者不明土地がもたらしてきた「見えない壁」を取り除くための制度的な一歩なのです。

災害時の公費解体──なぜ所有者不明が問題なのか

地震や豪雨などの災害が発生した際、倒壊家屋の公費解体は住民の安全確保と復旧の第一歩となります。しかし、所有者の同意が得られなければ、行政は原則として解体に踏み切ることができません。所有者が不明、あるいは連絡が取れない場合、手続きは停滞し、その間も危険な家屋が放置されることになります。

とりわけ問題となるのが、相続登記が未了の空き家や、住所変更が反映されていない登記簿の存在です。現場では、法務局の登記情報と住民基本台帳の情報が一致せず、所有者探索に膨大な時間と費用がかかります。熊本地震や西日本豪雨でも、所有者不明の家屋が解体の遅れを招いた事例が報告されており、災害対応の初動においてこれは致命的な遅延要因となっています。

登記制度改正──「所有者不明」を防ぐ構造改革

こうした課題に対して、政府は2021年に不動産登記法を改正しました。2024年には相続登記の義務化が施行され、2026年には住所・氏名変更登記の義務化が続きます。さらに、住民基本台帳ネットワークを活用した「職権変更制度」も導入されます。これは、所有者が事前にマイナンバーなどの検索用情報を登記所に届け出ておくことで、住所や氏名が住基ネットで変更された際に、登記官が職権で自動的に登記簿を更新できる仕組みです。従来のように所有者が一件ごとに登記申請する必要がなくなり、最新情報が常に反映されやすくなるため、所有者不明土地の発生抑制につながることが期待されています。

これは災害時の公費解体においても極めて有効です。登記情報が最新であれば、所有者の同意取得が迅速化され、危険家屋の除去がスムーズに進みます。このような制度改正は、災害対応の実務に直結する「命を守るインフラ整備」にほかなりません。

一日も早い制度定着を──自治体・住民・専門家の連携が鍵

もっとも、制度が整っても、実務に浸透しなければ意味がありません。自治体は住民への周知を徹底し、専門家は申請支援や制度設計の改善提案を行うべきです。住民自身も、登記の更新を「自分の土地と地域を守る行為」として捉える必要があります。

所有者不明土地問題は、単なる登記の不備ではありません。災害時の安全確保、公共事業の円滑化、そして地域社会の未来に関わる構造的な課題です。制度改正を契機に、私たちはこの「見えない壁」を越える準備を始めなければなりません。(森下伸郎)

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